呼吸する家

 「山で千年生きた木は、 じょうずに使えばさらに千年もつ」との格言は 法隆寺の宮大工の間で受け継がれた口伝(くでん)のひとつ。

 自然素材がもっている調湿作用がはたらいて、夏は太陽熱を遮り湿気を吸収し、冬は熱を蓄えることにより、室内環境をコントロールし一年中、健康に暮らすことができたのでしょう。

 日本の伝統家屋は断熱性や通気性に優れた素材でつくられた家でもあります。自然素材が呼吸することによってミクロの「すきま風」が流れていました。

 すきま風というと今隆盛の「高気密・高断熱住宅」と比べてとても劣るようですが、 そもそも分厚い断熱材で家をくるんで密閉すると、息苦しくなります。 高温多湿といわれる日本の気候の下ではなおさらです。
 夏でも家の中で火に親しむ生活を送っていた人々には家を密閉する観念はありません。 炉端やかまどで暖められた空気の一部は 煙ととも屋根の棟にある「煙り出し」から自然に排気される仕組みになっていました。

 健康住宅とは、外気を遮断する密閉容器ではなく、 人と同じように息を吸って吐くことによって呼吸の役割を果たし、 内外の環境に適応させていくことだと私は考えます。