木と土と草でできた日本の家は呼吸しています。
木は山で伐られてから、家や道具などに使われ「第二の生」を歩みます。
昭和50年代の法隆寺の解体大修理のとき、
屋根瓦を一枚ずつおろし屋根が軽くなるにつれて、
それまで弓のように反り返っていた垂木がむくむくと隆起し、
さらに表面をうっすらとカンナで引くと、
ヒノキの香りがあたり一面にたちこめた、という話です。
1300年昔のヒノキが今も生きていたのです。
「山で千年生きた木は、じょうずに使えばさらに千年もつ」との格言は
法隆寺の宮大工の間で受け継がれる口伝(くでん)のひとつ。
木に限らず、草の屋根も土壁も、家の中で生き続け呼吸をしています。
自然素材がもっている調湿作用がはたらいて、
夏は湿気を吸収し、冬は放出することにより、室内環境をコントロールし
一年中快適、健康に暮らすことができたのでしょう。
日本の伝統家屋は断熱性や通気性に優れた設計がなされた家でもあります。
自然素材が呼吸することによってミクロの「すきま風」が流れていました。
すきま風というと今隆盛の「高気密・高断熱住宅」と比べてとても劣るようですが
そもそも分厚い断熱材で家をくるんで密閉すると、息苦しくなります。
高温多湿といわれる日本の気候の下ではなおさらです。
健康住宅とは、外気を遮絶する密閉容器ではなく、
息を吸って吐くことによって内外の環境に適応させていくことだと私は考えます。