木を組む

 日本の国土の7割が森林といわれています。 千年前はもっと多くの原生林に囲まれていたと想像します。
 日本の家づくりを考えるとき、 木は欠かせない素材。
 縄文時代の掘立て柱式住居にはじまり、 試行錯誤の連続の末、洗練され到達した工法が木組みによる建物づくり。
「伝統構法」とも「在来工法」とも言われます。

 柱や梁など材と材を接合するために考案された「継手」「仕口」。 釘や金物を用いず、 継手は材同士を長さ方向に、仕口は材同士を直角方向に、それぞれを堅固に「組む」ことによって 材にはたらく力を伝達したり受け止める役割を果たします。
 創意工夫を加えることにより、さまざまな「継手」「仕口」のバリエーションが開発され、 その精密ぶりは、まさしく完成された「木の文化」と言えます。
 しかしながら複雑な形状を持つこれらの「継手」「仕口」は加工に熟練を要することや 生産効率が落ちるとの事情ににより、戦後のスピード化時代の流れから次第にふるい落とされ、 やがて「過去の技術」として顧みられることなく忘れられています。

日本は木の国

 法隆寺、厳島神社、姫路城、白川郷の合掌民家・・・・
 日本の古建築が世界遺産として登録され、 日本の建築文化の素晴らしさが世界に発信されることは喜ばしいこと。
 そして、これら「名建築」を支えてきた古来の「匠の技」も文化遺産として、 しっかりと受け継いでゆきたい、と思います。
 ところで法隆寺を支えている樹齢千年を超えるほどの大木を擁する森林は 身近な里山には存在しません。 古民家の太い柱や梁に使われていた樹齢百年を超える材木も希少です。 古代、出雲の国に宮殿が建てられた頃から、 つぎつぎと大木を求めて原生林を伐り開いていったのでしょう。
 木は循環資源といわれますが、 木の樹齢に見合う伐採と植樹・育成の管理しないと 資源としての森林は存続しません。 アマゾンの熱帯雨林減少が懸念されていますが、 古民家の梁に見られる太い用材が最近少なくなったこと考えると 過去に山の需給バランスが崩れた時代があったのだと思います。
 「100年かけて山で育った木は、じょうずに使えば100年もつ」 と昔の工人に教わりました。 林業に生きる人たちの誇りである「100年先にとどける仕事」 という気概に日本の伝統を次世代につなげる希望を見出せます。

伝統にまなぶ

 「地震に弱い」といわれる木造建築ですが、伝統構法で木を組み、竹小舞を編んで下地を作り 土塗り壁で仕上げた建物は 地震力に対して粘り強く抵抗し、変形はするものの倒壊を免れることが 阪神淡路大震災の後に行なわれた実大実験によって確かめられた例があります。

 木材市場においては、ようやく国産材が見直され 積極的な活用が進んでいます。
 日本の風土に適した木造建物は地場の木材と技術で 支えていく。 少数ながら各地に建てられる 「気候風土適応住宅」にはそんな矜持が漂います。