地球が沸騰する話 2023

もはや地球は温暖化の時代が終わり、
「地球沸騰化の時代が到来」
(The era of global boiling has arrived)
と国連のアントニオ・グテレス事務総長は警告した。

 背景には、世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が、 2023年7月27日に「2023年7月が人類史上最も暑い月となる」と発表し、 それを裏付ける科学的な公式データを発表したこと、がある。

 グテレス事務総長の警告に世界中が驚愕した。

 そして11月8日には、「コペルニクス気候変動サービス」が、 1月から10月の世界平均気温が1940年からの観測史上、過去最高となり、 2023年が記録上最も暑い年となることが確実だと発表した。
 1991年から2020年の同期間の平均を0.55度上回り、 これまで最高だった16年を超えた。
 (日本経済新聞【ブリュッセル=共同】)

 「2023年7月が人類史上最も暑い月となる」との見通しは、わずか3か月で現実となった。

 2023年上3四半期は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をめぐって東西両陣営が真っ向から対立した。
 両陣営は、第三極である発展途上国を巻き込み、味方につけようと外交戦略に飛び回る。

 そして12月4日。イスラム組織ハマスによる急襲に激怒したイスラエルは、 世界中の非難を寄せ付けず、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ南部へ地上侵攻を始め、 攻撃は全土に拡大する。

 一方、地球温暖化をめぐっては、 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に参加したアメリカ政府が12月2日、 2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量を3倍にすることを目指す宣言に、 日米を含む22か国が参加したと発表した。
 宣言は、UAEで開かれているCOP28に合わせて公表された。(毎日新聞12月3日朝刊1面)

 また、日本を含む有志国118か国が世界全体の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にすることを誓約した、 と議長国UAEが12月2日、首脳級会合に合わせて発表した。
 4日の毎日新聞朝刊2面には「日本 再生エネ拡大急務 /「3倍」誓約 / 適地不足 現行目標も難しく」との活字が躍る。

 さらに12月6日同紙朝刊1面に 「イスラエル / 南部侵攻 空爆激化 / ガザ北部『作戦ほぼ完了』」 との見出しが事態の深刻化を伝える・・・。

 その日の午後7時58分放映、NHKテレビ番組
「解体キングダム / 渋谷東急本店の解体に完全密着!? / 番組史上初 人力による壮絶壁倒し解体ガラのリサイクル施設に田中道子が潜入」
の中で女性キャスターが解体現場の屋上に上がり、 眼前に繰り広げられる解体されゆく鉄筋コンクリート塊を、林立する重機が まるで空爆するがごとく粉砕する実況を、
「おっ あっ・・・。スゴ〜〜! (拍手)  重機。えっ えっ? 重機の数がたくさん! 9台います、9台。渋谷のど真ん中ですよ!? うわ 興奮した。かっこいい!・・・あっ あっ えっ・・・スゴい!」(字幕)
と、ガラス、鉄、ゴム、ひしゃげた鉄筋をむき出しにしたコンクリート瓦礫が積み重なる現場を前に、話題を沸騰させる映像に思わず目を覆い、 たまらずチャンネルを変えた。

 病院やアパート、住宅、インフラ施設、歴史的文化財などが無差別に破壊される悲惨な戦地から遠く離れた東京の、 まだまだ使える建造物を「老朽化・経済的効率が悪い、時代にそぐわない」という理由で次々と近現代建造物を破壊する、脱炭素化に逆行するような官民足並み一致に、既視感がある。

 1964年、戦後復興のシンボルとして建設された東京オリンピック国立競技場という歴史遺産が、半世紀後に2020年東京オリンピックという名の国家プロジェクトのために破壊された。
 国際設計コンペによるドーム型当選案の工事費が予算をはるかに超過するという理由で建設が時の首相の「決断」によって撤回され、 ふたたびコンペで当選案が決まったものの、これも「資材高騰」「職人不足」を理由に再設定された予算を超過し、 設計変更に継ぐ変更を余儀なくされ、 ようやく7万人収容の競技場が完成したと思ったら、コロナ禍による中止・延期論が渦巻くなか、 窮余の策として2021年に無観客で開催されたという歴史的皮肉。

 その禍根も忘れられないうちに、神宮外苑のイチョウ並木が、既存のスポーツ施設の解体撤去移転、 大規模都市開発という「暴力」によって枯渇の危機にあるという愚の繰り返しに、 違和感を思えたのは私だけだろうか・・・。

 翻って今日。
 1970年の夢よもう一度、の地元行政・財界の大合唱によって開催が決定した2025年大阪万博。
 膨らむ会場建設費に批判が高まる中、各国のパビリオン建設が大幅に遅れている・・・。 近未来の予測も五里霧中ではないか。
 2020東京オリンピックにせよ、神宮外苑にせよ、大阪万博にせよ、 後に振りかえった時に悔やまれるのは、 その時々における許認可権を擁する行政の長(内閣総理大臣、東京都知事、大阪府知事)による判断の拙さだと私は思う。 誰一人として、50年、100年将来の街・都市・地方・国・地球環境のありかたを見据えた政治的決断をしていない。 彼らに共通しているのは、1年、2年先の選挙を見据えた「大衆迎合主義」だ。なんと情けないリーダーであろうか。

 「地球が沸騰する」危機の年に私が言いたいことは。
   地球温暖化にせよ、戦争にせよ、大規模都市開発にせよ、ただちに「人為」をやめたとしても、 来年、再来年と、地球上の異常は破滅に向けて着々と進むことであろう。 温暖化が進む現代において、一度溶けた極地の氷を元に戻すことは不可逆的ゆえに不可能である。
 2050年の世界目標「二酸化炭素排出実質ゼロ」を待たずして、今恐れている日が確実にやって来るであろう、という予感である。

 私たち地球民は、何を目指してどこへ向かうのか・・・。 いままで経験のしたことのない大きな不安の中で私たちは2024年を迎えようとしている。
 私も、そのうちのひとりである。

2023年12月7日